はじめに
LLMを使った開発をしていく中で、長く使える考え方の基本と出力の評価方法について体系的に学びたいと思い、本書を手に取りました。
読了後の結果として、プロンプトの5つの基本原則という明確なフレームワークを得ることができました。以前読んだ「LLMのプロンプトエンジニアリング」がアプリケーション開発者向けだったのに対し、本書はより一般的な利用者の視点から基本原則を学べる内容で、実践的な内容が多かったです。特に「テキストスタイルの分解」というテクニックは、今日からでも使える実践的な内容でした。
また「LLMのプロンプトエンジニアリング」はLLMに関する内容でしたが、こちらは画像生成のための拡散モデルに関する内容も含まれるのが大きな違いです。私はあまり興味がなかったので、拡散モデルについては流し読みをしましたが、必要になったときに参照できるよう、覚えておきたいと思います。
概要
本書は、生成AIを効果的に活用するためのプロンプトエンジニアリングについて解説した技術書です。LLMだけでなく画像生成AIについても扱っている点が特徴的で、基本的な原則やツールの説明を中心に、比較的読みやすい内容になっています。理論や仕組みの説明もありますが、実践的な内容が多く含まれていました。
各章の詳細
第1章:プロンプトの5つの原則 ― 【基本フレームワーク】
プロンプトエンジニアリングの核となる5つの基本原則が紹介されています。「方向性を示す」「出力形式を指定する」「例を示す」「品質を評価する」「タスクを分割する」という原則は、どんなプロンプト設計にも応用できる普遍的な内容でした。
プロンプトエンジニアリングとは、有用な、あるいは望ましい結果を確実に生み出すプロンプトを発見する過程です。
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特に印象的だったのは「品質を評価する」の部分です。ブラインドプロンプティング(試行錯誤)から脱却し、評価システムを構築することで、プロンプトの長さを短縮し、コストと時間を削減できるという考え方は実用的でした。また、「Let's think step by step」という一文で推論力が向上するChain-of-Thoughtテクニックも興味深い内容でした。
第2章:テキスト生成のための大規模言語モデル入門 ― 【基礎概念】
LLMの基本的な概念と仕組みについて簡潔に説明されています。ベクトル表現、トランスフォーマー、確率的テキスト生成といった内容が扱われていますが、より詳しい内容は「LLMのプロンプトエンジニアリング」の方が充実していました。
第3章:LLMによるテキスト生成の標準的な手法 ― 【実践テクニック】
LLMに作業をさせる際のプロンプト改善方法と応答処理について丁寧に解説されています。「5歳児にもわかるように説明してください」「コンテキストの要求」「テキストスタイルの分解」といった具体的なテクニックが紹介されていました。
特に「テキストスタイルの分解」は、トーン、長さ、語彙、構造などの特定のテキストの特徴を文書から抽出し、分離することを可能にする手法です。AIによる記事執筆支援を実践する上で参考になる技術で、本ブログを継続する上で役立つと感じました。既存の記事から文体の特徴を抽出し、一貫性のあるコンテンツを生成できるようになることは、長期的なブログ運営において重要な要素だと思います。
第4章:LangChainを用いた高度なテキスト生成手法 ― 【フレームワーク】
LangChainという生成AIの複雑なタスクに取り組むための強力なツールキットについて説明されています。LLMワークフローを大幅に簡素化し、強化するオープンソースのフレームワークとして、基本的なコンポーネントについての包括的な説明がありました。
第5章:FaissとPineconeによるベクトルデータベース ― 【検索技術】
ベクトルデータベースの概念と、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)について解説されています。類似検索を可能にする技術として、ドキュメントの読み込み、レコメンドシステム、長期記憶などの重要なAI機能を支える技術だということが分かりました。
ベクトルデータベースを使うことで、最も関連性の高いテキストをプロンプトにコンテキストとして挿入でき、無駄なトークンの消費を避けられるという実用的な利点も説明されていました。
第6章:ツールとメモリーを使う自律エージェント ― 【高度な実装】
CoT推論の重要性と、エージェントを活用することでLLMがいかに複雑な問題を推論するのかについて掘り下げています。ReAct(推論と行動)やOpenAI Functionsといった具体的な実装方法が紹介されていました。
複雑な問題をより小さく管理しやすい構成要素に分解することで、より効率的な解決策を提供できるという考え方は、プロンプトエンジニアリングの本質を表していると思いました。
第7〜9章:画像生成 ― 【Midjourney/Stable Diffusion】
拡散モデルの入門から、MidjourneyとStable Diffusionを用いた画像生成手法について解説されています。LLMだけでなく画像生成も扱っている点が本書の特徴的な部分でした。
第10章:AIを活用したアプリケーションの構築 ― 【実装例】
ユーザーインタビューの回答に基づき、そのユーザーの文体でブログ記事を作成するアプリケーションの構築例が紹介されています。単一のプロンプトではうまくいかないことを示し、5つの原則に照らして問題を分析する過程が実践的でした。
LangChainを用いて複数のチェーンからなるアプリケーションを構築し、メンテナンス性を高める方法も解説されていました。特に、文体の適用やタイトルの最適化といった具体的な実装例は参考になりました。
実務への応用
「テキストスタイルの分解」は、現在の記事執筆業務にすぐに活用できそうです。既存の記事から文体の特徴を抽出し、新しい記事に適用することで、一貫性のあるコンテンツ作成が可能になります。
プロンプトの評価システムを構築することで、単なる試行錯誤から脱却し、効率的なプロンプト開発ができるようになると考えています。
良かった点
プロンプトエンジニアリングの5つの基本原則という明確なフレームワークを提示している点が特に良かったです。これらの原則は汎用性が高く、様々な場面で応用できそうです。
また、理論的な説明だけでなく、実践的なテクニックが豊富に紹介されている点も評価できます。特に第3章の各種テクニックは、すぐに試せる内容が多く含まれていました。
気になった点
「LLMのプロンプトエンジニアリング」にあったようなドキュメント補完エンジンであるという一貫した視点があまり感じられませんでした。また、「LLMが物事を理解」という表現がありますが、LLMを「ドキュメント補完エンジン」と捉える私にとって、LLMが物事を理解するのかという疑問は残りました。
おすすめ度
読む前に、LLMの基本的な概念(トークン、コンテキストウィンドウなど)について理解していると、より深く内容を理解できるでしょう。
LLMのプロンプトエンジニアリングと比べると、やや入門者寄りの内容に思いました。
まとめ
「長く使える考え方の基本」を得たいという期待に対して、プロンプトの5つの基本原則という明確な答えを得ることができました。特に「テキストスタイルの分解」という実践的なテクニックは、期待以上の収穫でした。
一方で、出力の評価については基本的な考え方は理解できたものの、より詳細な評価手法については今後さらに学習が必要だと感じました。全体として、プロンプトエンジニアリングの入門書として良書だと思います。今後は本書で学んだ原則を実践しながら、より高度なテクニックを身につけていきたいと思います。