はじめに
2000年代からの「ググる力」以上に、これからはAIにうまく働かせるスキルが必要だと考え、そのための基本的な考え方(勘所)とノウハウを得たいと思い、本書を手に取りました。
読了後、プロンプトの書き方から始まり、プロンプトエンジニアリングの各種手法、そしてビジネス活用時の価値基準まで、AIとコミュニケーションするための体系的な知識を得ることができました。特に第2章のプロンプトの書き方は、今日からでも実践できる具体的なテクニックが満載でした。
概要
本書は、生成AIと効果的にコミュニケーションするための技術を解説した実践書です。単なるプロンプトの書き方だけでなく、プロンプトエンジニアリングの基礎から、ビジネス活用時の法律・倫理的な配慮まで幅広くカバーしています。AIを活用するために学びたいすべての人の最初の1冊としておすすめできる良書です。
各章の詳細
Prologue:生成AIの現在地図 ― 【導入】
これからはAIを「どう操るか」が重要だという視点から始まります。AIとの関わり方を「完全自動型」「成果検証型」「補助支援型」「完全手動型」の4つに分類し、AIの仕組みや限界、リスクを知って有効かつ安全に扱えるようになることの重要性を説いています。
第1章:40のキーワードでひもとく生成AI ― 【基礎知識】
生成AIに関する重要な用語が整理されています。特に印象的だった概念をいくつか挙げます。
トークンについて、文字と単語の間の単位で、必ずしも単語数とは一致しないが文字数より小さくなることはないという説明は、コスト削減を考える上で重要でした。
Embeddingの説明も分かりやすく、文や単語をベクトル空間に埋め込むことで、意味の関連度合いをコンピュータで処理できるようになるという基本概念が理解できました。
RAG(検索拡張生成)は、生成AIが事前に学習していない情報に基づいて回答を生成させる手法として、実務での活用が期待できる技術だと感じました。
第2章:生成AIに伝わるプロンプトの書き方 ― 【実践テクニック】
この章は本書の中核となる内容で、具体的なプロンプトの書き方が詳しく解説されています。
プロンプトデザインの原則として、以下のようなテクニックが紹介されていました:
- 具体的に質問する
- 提供情報と依頼情報を明確にする
- 一貫性のある言葉を使う(表記ゆれを避ける)
- 自分の理解度・立場・状況・目的を説明する
- ロールを付与する
- 出力形式を規定する
- 必要情報を質問してもらう
- 参考テキストを提供する
- サブタスクに分割する
- フレームワークを活用する(SWOT、PEST、SMARTなど)
- やるべきことを強調する(禁止事項より推奨事項を)
- 中間推論させる(「ステップバイステップで考えて」)
特に「一貫性のある言葉を使う」という点は、DDDにおける区切られた文脈と同じ考え方でよさそうだと感じました。また、「やるべきことを強調する」という原則は、AIが禁止事項を守りにくい特性を踏まえた実践的なアドバイスでした。
チェーンデザインについても詳しく説明されており、プロンプトが大きすぎるとトークン制限に引っかかったり、無視する指示が出てくることから、適度なタスクに分割して数回に分けて出力を得ることの重要性が強調されていました。
第3章:生成AIのポテンシャルを引き出すプロンプトの使い方 ― 【活用方法】
生成AIの活用を3つの軸で考える視点が提供されています:
- QCD(品質、コスト、納期)の観点
- 社内/社外活用の観点
- 支援型と自律型の観点
生成AIの8つの主要スキルとして、以下が挙げられていました:
1. 草案作成(文書)
2. 草案作成(プログラム)
3. 情報取得(学習済み知識)
4. 情報取得(入力データ)
5. 情報変換(要約、翻訳、構造化など)
6. チェック・改善提案
7. アイデア出し
8. 人格再現(シミュレーション、疑似ユーザーインタビューなど)
各スキルについて具体的な活用方法が説明されており、実務での応用がイメージしやすい内容でした。
第4章:プロンプトエンジニアリングの基礎 ― 【高度な手法】
様々なプロンプティング手法が体系的に整理されています:
- Zero-shotプロンプティング:テクニックを使わない素のプロンプト
- Few-shotプロンプティング:いくつかの例を挙げて回答精度を高める
- 思考連鎖(Chain-of-Thought)プロンプティング:思考プロセスを与えて推論問題の精度を向上
- 自己整合性(Self-Consistency)プロンプティング:複数の推論経路から最も一貫性のある結果を選出
- 知識生成(Generated Knowledge)プロンプティング:関連知識を生成してから回答
- 思考の木(Tree of Thought)プロンプティング:中心的アイデアから分岐させて考察
- 方向性刺激(Directional Stimulus)プロンプティング:ポリシーモデルによるガイダンス提供
- CAMEL:AI同士の対話による問題解決
各手法について具体的な使い方が説明されており、状況に応じて使い分けることの重要性が理解できました。
第5章:生成AIのビジネス活用ナレッジ ― 【実装と運用】
プロンプトエンジニアリングにおける価値基準として、以下の観点が挙げられています:
- 回答精度
- 出力速度
- LLM利用料金
- セキュリティリスク(一般的なものと生成AI特有のもの)
- 可用性
- 保守性
- 環境負荷
プロンプトインジェクション対策として、区切り文字(ハッシュ文字列など)で囲む、事前に質問の妥当性をAIで判定する、利用規約での禁止、ログ収集による検知などの具体的な方法が紹介されていました。
ハルシネーション対策では、グラウンディング(完全な情報を与えて基づいて回答するよう指示)の重要性が強調されていました。
また、著作権、商標、パブリシティ権など、AI活用時に知っておくべき法律知識についても整理されており、実務で役立つ内容でした。
第6章:進化し続けるテクノロジーとAIリテラシー ― 【将来展望】
生成AIリテラシーの重要性と、今後の展望について述べられています。価値観やモラルは変化するもので、今後生成AIはより身近で必要不可欠になっていくという視点が示されていました。
実務への応用
読書メモから得た知識を実務に応用する際、特に以下の点が重要だと考えています:
プロンプト設計の原則を日々の業務で意識的に実践することで、AIからより良い回答を引き出せるようになります。特に「一貫性のある言葉を使う」「サブタスクに分割する」「中間推論させる」といったテクニックは、すぐに実践できそうです。
チェーンデザインの考え方は、複雑なタスクをAIに依頼する際に重要です。適切にタスクを分割し、段階的に処理することで、より精度の高い結果を得られるでしょう。
セキュリティ対策の知識は、AIを業務で活用する上で必須です。プロンプトインジェクションやハルシネーションへの対策を理解しておくことで、安全にAIを活用できます。
良かった点
生成AIに関する知識が体系的に整理されており、初学者でも理解しやすい構成になっていました。特に第2章のプロンプトの書き方は、具体的なテクニックが豊富で実践的でした。
また、技術的な内容だけでなく、ビジネス活用時の価値基準や法律・倫理的な配慮まで幅広くカバーしている点も評価できます。プロンプトエンジニアリングの各種手法が網羅的に紹介されており、リファレンスとしても活用できそうです。
気になった点
特になし
おすすめ度
特に以下のような方に適しています:
- 生成AIを業務で活用したいビジネスパーソン
- プロンプトエンジニアリングを体系的に学びたいエンジニア
- AIとの効果的なコミュニケーション方法を身につけたい方
- AI活用時のリスクや法的配慮について理解したい方
まとめ
「ググる力」の次に必要な「AIをうまく働かせるスキル」を身につけるという目的に対して、本書は十分な内容を提供してくれました。プロンプトデザインの基本原則から、高度なプロンプトエンジニアリング手法、そしてビジネス活用時の実践的な知識まで、幅広く学ぶことができました。
特に、プロンプトを書く際の具体的なテクニックやチェーンデザインの考え方は、すぐに実践できる内容で価値が高いと感じました。今後は本書で学んだ知識を基に、日々の業務でAIとのコミュニケーションを改善していきたいと思います。